【ちょっと文章勘を戻そうと思って】
毎日なにがしか文章を書こうと思っている。
まあ、三日坊主で終わってしまうだろうけれども。できる限り頑張ってみようと思います。
【人間賛歌とは何か】
物語の要素としての人間賛歌というのは何か。厳密な定義はありませんが、『お話を読んでいて心に勇気や人間の魂の偉大さを感じる』物語が人間賛歌です。厳密な定義ができないものなので、言ってしまえば『あなたが人間賛歌だと思うものが人間賛歌』です。いい加減ですね。ライトノベルやセカイ系の定義のようなものです。
だから、今から上げる具体例は、自分が人間賛歌だと思う物語のシーンです。
- JOJOの奇妙な冒険第1部で、少年が、勇気を振り絞ってトラップを解除するために部屋に飛び込むところ。「ねーちゃん! あしたっていまさッ!!」
- 銃夢で、(元連続殺人鬼の)ビュイックさんが少女を助けるためザレムの死の天使の前に体を投げ出すところ。「ハロォ、ザレムの『死の天使』さん!勝利者インタビューに答えてよ~!」
- うしおととらで、”たゆら”と”などか”の「満足する死とは何だ?」という問いに対して真由子が答えた言葉。「泥なんてなんだい、よ」
- サムライミのスパイダーマン2で、ドクターオクトパスにスパイダーマンを引き渡すように言われた地下鉄の乗客が体を張ってスパイダーマンを守るところ。「俺を倒してからいけ」
【人間賛歌に必要な要素】
こういう部分に自分はどうしようもなく、『人間賛歌』を感じてしまう。尊い。てえてえ。
ただ、それ以外にも、一般的に人間賛歌に入るのではないかと思われるような『勇気を振り絞るシーン』『弱い人間が成長するシーン』には、そこまで強く人間賛歌を(僕は)感じない。ここら辺はもう、人それぞれなので、好みの問題ですねとか言えないのですが、ただ、自分が『人間賛歌』だと思うものには共通点があって、今からそれを分析抽出していこうと思います。
上で上げた例で当てはまらない要素もありますが、ただ、経験的に”こちらの方がアガる”というのはわかるので、そういう要素はあるものとして抽出していきます。
- 主人公(そのシチュエーションで人間賛歌を奏でる人物)は無力な存在(または卑怯な存在)である。(※邪悪な存在ではない)
- 主人公に対して、その”勇気の方向”に導く存在がいる。
- 逃げる、という選択肢がある。
っていう要素が抽出された。
うしおととらの真由子の例は当てはまらないものが多いけれども、でも、うしおととらは全てが人間賛歌みたいなものだから……。
【それぞれの要素の分析】
主人公(そのシチュエーションで人間賛歌を奏でる人物)は無力な存在(または卑怯な存在)である。(※邪悪な存在ではない)
卑屈で弱い人間が、勇気をまとう瞬間というのに弱いみたい。弱いけれども勇気だけはある人間が障害に立ち向かうというシーンよりも断然上がる。
なぜ、精神的に弱い人間が勇気をまとう瞬間に人間賛歌を感じるのかと考えたら、そこには(彼らが弱いからこそ)『人間は全てが強い存在』っていうメッセージを受け取るからだと思う。
主人公に対して、その”勇気の方向”に導く存在がいる。
JOJOの場合はジョナサンジョースターと姉ちゃんだし、うしおととらではうしおだし、銃夢ではバージャックの人たちだし、スパイダーマンではスパイダーマン。人間賛歌の奏者は、何もないところから勇気を絞り出すのではなく、『勇気あるもの』に感化されるようにして心の奥から勇気があふれ出しているんですね。
これは、サムライミのスパイダーマン2のテーマにもなっていて、『なんで人が勇気を振り絞ることができるのか』ということの答えが『心の中にヒーローがいるから』っていうことなんですね。スパイダーマンはニューヨークの平和を物理的に守っているけれども、それ以上に『この世の中には正義のために戦うヒーローがいる』という事実が人に元気と勇気を与えるっていう話です。だから、地下鉄で、スパイダーマンの正体が”息子くらいの小さい子供”だと知った普通の市民が、ドクターオクトパスの前に体を張ってスパイダーマンを守ろうっていうシーンにつながるわけです。
上の要素ともつながっていて、弱い人間が誰かに憧れたり、誰かの言葉や勇気を支えにして困難に立ち向かうっていうのは、(自分が弱い人間なので)すごいアガる。あと、説得力があるのかもしれません。
逃げる、という選択肢がある。
これは、作劇上の技術の話で、絶体絶命で戦う以外の選択肢がない時よりも、逃げるという選択肢がある方が、『自分で選んで立ち向かう』という行動、そしてそれに伴う勇気と意志がくっきりと浮かび上がるからです。好き。
人間賛歌は、以上の要素がその働きを果たすことによって奏でられるのだと思います。
【作例】
以上を踏まえると、
- 主人公がどのように無力(卑屈)か。
- 主人公を勇気に導く存在は何か。
という2点を設定することによって、いくらでも人間賛歌を生成することができるようになります。できるはずだ。
以下、いくつか作例を上げる。
作例1
設定
- 主人公がどのように無力(卑屈)か。
- 20年まえに特撮ショーの中の人をしていたが、その後退職、ずっとアルバイトをしていて、生活は苦しく、他人を思いやる余裕はない。
- 主人公を勇気に導く存在は何か。
- 20年前の特撮ヒーロー。そして演じていた自分自身。
物語
主人公は中年アルバイト、生活は苦しく、自分に関係ないことには関わらない。極力面倒を起こさないように、周りでトラブルがあってもすぐ逃げるような生活をしている。ある日の深夜、アパートの隣の部屋の小学生が部屋の前でボロボロになっている。どうやら、虐待を受けているらしい。トラブルはごめんなので関わりたくないが、つい、子供を家に入れてしまう。どうやら子供は昔の特撮に詳しくて、自分が昔中に入っていた特撮ヒーローが特に好きらしい。主人公は、その子供に、『ヒーローなんて本当はいない、だっているのなら、なんでそうなってるお前を誰も助けに来ないんだ』というようなひどいことを言ってしまう。曖昧に笑う子供。その顔をみて後悔する主人公。隣の家の父親が隣の部屋にいるのに気づいて入ってくる。ひょろひょろの主人公と違って結構ガタイがいい。何勝手なことをしてんだ、っていって、殴られて倒れる。ごめんなさいごめんなさい、と謝ってしまう主人公。
それからたまに深夜に部屋の前で座っている子供を見つけるが、無視して部屋に入るようになってしまう。
(昔のヒーローショーの時の自分を思い出して、煩悶とする日々)
ある日、隣の子供が家に駆けこんでくる。実は隣の子供には妹がいて、妹が今、怪我をして大変なことになっているけれども親は病院に連れて行こうとしないらしい。なんでそこまで妹に真剣になるのか聞いたら、「俺は妹にとっての〇〇〇〇(ヒーローの名前)だから」。その言葉を聞いて、かつての自分を思い出して勇気を振り絞って、隣の部屋に飛び込んでいき、ぼこぼこにされながらも妹を連れ出して、病院に連れていく。
作例2
設定
- 主人公がどのように無力(卑屈)か。
- 非モテ。好きな子がいるのに、好きだと伝えられない。
- 主人公を勇気に導く存在は何か。
- モテ。ギャル。
物語
主人公は小学生の時は普通だったけれども中学生くらいから陰キャ非モテカーストに。気が付けば高校生。同じ放送部に好きな女の子がいるけれども、告白できずに適当にはぐらかす日々が続いていた。彼には幼馴染のギャルがいる。(小学生の時の同級生、昔は普通)恋愛中毒のギャルで、彼氏が常にいる。別れて付き合って別れて付き合って。いつでも、これが最後の恋っていってる。主人公とは結構話す仲で、恋の話とか結構聞く。主人公のビビリと告白できなさに対して、『わかる』と共感を示す。どんなに場数を踏んでも、人に好意を伝えるのはいつだって怖い。でも、それを越えないと恋は手に入らない。主人公にライバルが現れる。ギャルの元カレ。急速に放送部の彼女との距離を縮めていく。「告白されちゃった」「どう思う?」って相談される主人公。最初、適当にはぐらかすけれども、ギャルの言葉を思い出して、勇気を出して、自分もその放送部の彼女のことが好きだと告白する。
作例3
設定
- 主人公がどのように無力(卑屈)か。
- 詐欺師。霊能者をしていて、前世の~とか言ってお金をだまし取っている。
- 主人公を勇気に導く存在は何か。
- 本物の超能力者。
物語
前世がわかる、前世の行いが悪いせいで今の不幸が、といって、小金をだまし取っている主人公。ある日、本物の霊能力者にであう。(※盲目だとキャラクターがたつ)触ったものから人の心が読めて、近い未来を予測できる能力者。ある老女をだまそうとしてるときに、その孫だった。その少年に触られて心を読まれて、だますプランを台無しにされてしまう。憤慨する主人公だったが、しかし『このガキを使って日一儲けできるぞ』と思い直す。一緒に来るようにいうと、祖母がもうすぐ死ぬからそれから後ならいいという。果たして少年の予言通り祖母は死に、少年は詐欺師と一緒に行動するようになる。全部わかってしまうのは辛いだろうなと同情する。詐欺師は少年と一緒に行動するが、少年は真実を言ってしまうので、詐欺の仕事にならない。少年と別れて、一人で詐欺の仕事に戻る主人公。前と同じように詐欺の仕事をする。しかし、昔は気にならなかった(だまされた人間のその後)が気になって仕方がない。ある日、大口のカモを見つける。末期のガンで、家の財産を使い込み、家族を無視して詐欺医療に莫大な時間と金を使い込んでいる。家族全員不幸になっている。今までの自分だったら、搾れるだけ搾ろうとするだろうが、ふと、あの少年だったらどうするだろうと思ってしまう。「ガンは治らない、あなたは死ぬ、家族との時間を大事にしてほしい」というのを相手に伝わる言葉で伝えて、その場をさる。少年と再会する。
……いくらでも作れるな。これ。