06/22日の日記でも一度書いたのだけれども、小説の神様 (講談社タイガ)のちゃんとした感想です。ちょっと長めだよ。漫画も結構描いたので、それだけでも見て行ってね。
レビューや感想を書く意味
ところで、作品のレビューって書くときいつも悩む。学術書とか評論とか教養の本だったら、その中で書かれていることの主軸のテーマを要約してわかりやすく書いて、それに対する自分の考え方を書けばいいのだけれども(イラストでわかる『銃・病原菌・鉄』 - orangestarの雑記みたいな)、小説の場合、どうしてもお話の要約がネタバレになってしまうことも多いし、それによって、無垢な気持ちで作品に触れてもらえなくなるというのはもったいない。
けだし、レビューや感想を書いて、サイトにあげる、ということの目的は、“面白かったからぜひ読んでほしい”ということなの。ただし、その面白かったところ、面白い部分をどうやって伝えようとすると、どうしてもネタバレになってしまう。お話をばらさなくても、どう面白かったかを書くだけでも、ネタバレにはなってしまう。シックスセンスの話をするときに“最後のどんでん返しがすごかった!”っていったら、細かいネタについてはばらしてなくても、バラしたも同然。「叙述トリックの完成形!」と書かれた推理小説の帯。
そんな感じで、自分はそういうときにどうやって感想を書いてたのかなーって思ったら、自分自身の話を書いていました。
是非読んでほしい『現代詩人探偵』(紅玉いづき) - orangestarの雑記
ロスジェネ心理学を読んだよ - orangestarの雑記
特に、ロスジェネ心理学の感想はうまくかけていたと思う。
まあ、そんな感じで、今回も自分の話を交えて書いていこうと思います。
一応、簡単なあらすじ
主人公、千谷一也は中学生で作家デビューした現在高校生の現役作家。しかし、デビュー作以後振るわず、現在は初版3000部。ドラゴンボールにたとえたらナッパくらい。新作の企画も通らずに日陰の日々を送っている。その千谷の前に突然現れた現役高校生美少女作家、不動詩凪!明確な戦闘力は示されないがおそらく100000部くらいで、ギニュー隊長くらい。(というか共通の担当さんの提案で、協力して小説を書かないかと企画された)嫉妬と圧倒的な才能に劣等感を抱きながら、千谷先生は自分の小説を書く意味を見つけることができるのか……!
というお話です。
しかも、その高校生美少女作家は最近自分の高校に転校してきた転校生!
プロットレベルまで分解するなら、本当によくある話。よくあるボーイミーツガールなんですが。
ちょうど、同じころ、自分も、同じように、仕事をする理由とか、無力感とか、時間をかけて自分から失われていくものや力。そういうことにいろいろと悩んでいて。
で、自分がそういうことに悩んでいるとき、丁度タイミング良く、この小説を読むことができて、そしてそれによって、自分の悩みが晴れた…というか、憑き物が落ちたのですね。
そういった理由があって「この小説すごい面白い!」と思っているのですが、それ以外の人が読んで面白いのか、冷静に考えるとよくわからなくなってきましたね…。さっき、面白いからみんなに勧めるって言ってたんですが、自分自身のことでどうだったかってことを考えると、あれ…?これが面白いのって自分自身の特殊な事情のせいじゃないの…?って。
漫画だけのことに限らず、以前してた仕事でもそうなんですけれども、人生において仕事の割合が大きくなってくると、仕事の概念自身が自分になって行って、結局、仕事は自分の一部、または生活の一部でしかないのに、それが全部みたいになることとかあって、そういうので、だめになってしまうメンタルとか、“酸っぱいブドウ現象”で物事を素直に見れなくなっていたり他人を正しく評価できなくなっていたり。でも、それがわかっていても実際にどうにかできるわけではなく、どうしたって、“そこ”でやってくしかないので(それは別の仕事に転職しても別の場所に行ってもそうだ)それをそれとしてどうするのか。
それに対しての答え、というものをこの作品の中で出しているわけではないのですが、それに対して、“なんとかしよう”として“なんとかはなる”人の物語をみると、フィクションだとわかっていても元気づけられる自分がいるわけです。
問題解決の方法でもなくて、問題状態にあることに対する肯定でもなくて、諧謔でもなくて、問題は解決しないけれどもがんばってる誰かの姿、その姿が(フィクションであろうと現実であろうと)必要なんだってことだったんだな、って思いました。
そういうわけで、今、自分の立っている場所で、自分のどうしようもない実力不足で、悩んでる…あー悩みっていうのは一応答えの出るタイプのものだから、煮詰まってるとか落ち込んでるとかの、そういう人は、ちょっと読んでみてほしいです。“高校生の部活もの”の体裁をしているけれども、“社会人の仕事もの”の作品です。あと、ヒロインはいますけれども、恋愛展開はないですね。いいドS上から目線ツン(デレない)なのに……。実際に主人公より背が高いのに……。一部の人の神経にビンビンくるのに…。(ただ、このヒロイン、主人公のメンタルをバキバキに折りに来るので、そういう一部の人にも実際にお勧めです。あれだけメンタルおられてるのに立ち直れるってこの主人公真性ドMなのではないの……。)美少女じゃなくて、同じ同性の作家にした方が作品のテーマもビビッドになったかもしれない、あと、一部の人の神経にビンビン触れたかもしれない……。
あと、「部数が5000部で、その半数しか売れなかったので、続刊はないですね」とかそういう部数の話とか、そういう話も結構語られていて、出版関係の結構キッツーな感じとか。そういうのも、この作品の魅力だと思います。みんな頑張って生きてるんやで。
その他、あまりにも個人的に面白かったこと。
ヒロインがなぜか知ってる人(のような気がする)
ヒロインの小余綾詩凪(こゆるぎしいな)、リアリティのない女王様美少女なのですが、読んでるうちに、あれ…既視感…?というか…あれ…知ってる…?と脳内に、チラチラと赤い色の球系の物体が……。
そう…、知人の小説家、紅玉いづき先生です……!
自身に満ち溢れた言動とか、行動とか。このヒロインからは金沢の臭いがする。
まあなあ…キャラが立ってるものなあ…。キャラが立ってたらモデルにもするよね……。たぶん……。一応小説家で仲いいみたいだし……。
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キャラクターを作るときに、知人をモデルにすることがある、ということをよく聞いたのですが、実際にモデルになってる実例(たぶん)に出会うのは初めてで(結構あることなのだろうけれども僕は友達が少ないから…)新鮮な体験をしました。モデルにした場合って、結構わかるものなのかもしれないとかそういう感想とともに。現実感がないリアリティのない設定なのですが、実際のモデルがいるせいか、かなり生き生きと描かれています。いるいる~~こんなひと~~。リアリティのあるリアリティのなささ。
実際、自分が社会人になる前はわからなかったけれども、社会に出ると世の中怪物であふれているので、高校生の頃、訳知り顔に「作品のリアリティが」とか言っていた自分を殴ってやりたい。自分の嫁もリアリティないです。
モデルになった(と思われる)紅玉さんの新刊「大正箱娘」もお勧めです。
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ここまで書いててまったくの偶然だったらどうしよう。
とても個人的なご報告となりますが、春のおわりに第一子を出産いたしました。娘です。忙しくなってしまいましたが、公私ともに頑張っていくつもりです。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
— 紅玉いづき@3月新刊2冊 (@benitamaiduki) 2016年6月22日
あと紅玉さん、第一子誕生おめでとうございます。
現役高校生作家による最近のラノベ語り
作中で、主人公が、どうしても売れる作品を!ってなった時に語る最近のラノベ語りがあまりにも雑だったので、“天狗!天狗が来る!”ってなって個人的に面白かったです。
「僕らの日常に、事件なんてなにも起こらない。殺人事件も、誘拐事件も、日常の謎も、なんにも起こらない。幽霊も妖怪も神様も、殺人鬼も名探偵も存在しない。専門店で謎を解いてくれる店主なんて見たことないし、異世界に行ったことのある人間もいない。美少女に囲まれてモテモテの高校生活を送れる男子だって存在しない。実在してたら末代まで呪うよちくしょう。とにかく、読者が読みたがるのはそういう現実とは明らかに違う世界の物語だ。リアリティなんて、そこにはぜんぜん必要ない。小説は、いかに嘘を面白く書けるかが勝負なんだよ!」
これは主人公の本心ではなくて、(まあいろいろ作品のテーマに触れるもろもろ)から出た言葉なのですが、天狗!天狗!ってなりましたね。個人的には超面白いポイントでしたが、面白いのはやっぱり自分だけなのかもしれない……。
ただ、この一連のセリフは、一応、作品のテーマに触れるもろもろにかかわるセリフで、人が、小説を読んで、書く、その理由というのは、現実逃避のためなのか、それとも、○○○○…。っていう。まあ、それはもう、読んでいただかないと……。
というわけで、個人的にとてもおすすめな「小説の神様」なのですが、なぜ面白いかを考えていたら理由があまりにも個人的過ぎた。
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