orangestarの雑記

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傑作かどうかを周りの評価で判断する愚かしさ

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とりあえず言っておかないといけないと思ったので

p-shirokuma.hatenadiary.com

 『鉄血のオルフェンズ』を、私は傑作と評することはできません。ただ、ここでいう「傑作」とは、セールス良好で、みんなの話題と記憶に残るような作品になる、という意味です。この視点で言うと、『Vガンダム』『ガンダムF91』といった、一部の愛好家に熱烈に愛される作品は「傑作」に含まれません。もちろん『TV版の新世紀エヴァンゲリオン』も「傑作」に含まれず、どちらかというと『けものフレンズ』や『魔法少女まどかマギカTV版』あたりのほうが「傑作」という認識です。


って書かれているんですけれども、これって、とても、良くない価値観だと思うんですよ。
じゃあ、最初に世の中に公開されたときは、全然売れず一部の好事家のみ知っていた本が、100年後に日本中の全員が知っている本になったとして、(たとえば宮沢賢治とか)それじゃ、その本は、100年前は駄作で、100年間のうちに知らずに文章が入れ替わって、面白くて価値のある作品に代わっていたのか、というと、そんなことはない。そこに書かれた文章はずっとそのまんまです。ただ、人だけが変わる。
知名度がなかったり、評価されなかったりするのは、時代の空気がその作品を許さなかったり、理解されなったり、また、タイミング的にセールスがうまくいかなかったり、それを販売する会社や流通のターゲッティングが間違っていて、全然売れなかったり、そういうことが原因のことだって多い。



そういう販売や知名度の結果だけで傑作駄作を決めるのならば、テレビ局が有名タレントを使って、ごり押しで作って観客を集めた映画は全部名作だということになってしまう。

作品は人に読まれて作品になる、駄作と傑作の判断は常に、見た人ひとりひとりの中にある

そもそも、名作、傑作、駄作の判断っていうものはなにか。


作品と呼ばれている本や映画やゲームというものはいうのは、ただのデータ、文字列で、それ自身が価値や物語を持っているものではないと思います。それを人間が読んだり見たりして、その読んだり見たり人の感性や記憶が、そこに書かれていることに意味を見出して、初めて、それが物語なり、作品なりになるものだと思っています。だから、同じ本があったとしても、その本を読んだ人の分だけ、物語の数があるし、それぞれ別々の意味を持っているものになる。自分が読んだ、ドラえもんのび太と恐竜と、あなたのよんだドラえもんのび太の恐竜は全く別のものになるわけです。



その作品が書かれる背景についての知識があるかないか、そして人生でどのような体験、経験をしてきたのかによっても、作品の感想は変わってきます。同じ人の中でだって変わってきます。以前読んだ本を10年ぶりに読んだら、全く別の感想を持ったり、新しい発見があったりするのは、そのためです。



物語というものは、因果関係の連なりですけれども、本の文章の中に描かれた出来事のなかに、どのような因果関係を見出すか、見出さないかは、それを読んだ人次第なわけですよ。
(そこらへんのことは物語の展開には1パターンしかない_物語の作り方(下書き2) - orangestarの雑記のエントリに、以前書いてあります)


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物語というものは、描かれた時点で、作者から離れてしまうものだと思っています。そして受け取り手次第で、物語は変わってくるし、100人いたら100人通りの物語。その感じ方も評価も違って当然だし、違っているべきだと思うんですよ。みんなの感想が違ってないって気持ち悪い。世の中の大半の人が面白いっていう作品でも、つまらないって思う人がいていいし、世の中で、つまらない駄作って判断されていても、それがすごい面白くて、人生が変わる作品だって人がいてもいいし、たぶん、います。



もし、傑作駄作がセールスと世間の平均だけで決まるのなら、漫画はワンピースだけあればいいし、小説家は村上春樹だけいればいいいんですよ。でも、そうじゃない。



世間ではどうでもいい、失敗作だといわれている物語が自分には人生を変えるような素晴らしい物語のことだってあるし、逆のことだってあるわけです。



なので、安易に自分にわからないからつまらないと言ったりすると、戦争の火種になります。さらに悪いのは、自分で価値判断せずに、世間で言われているから駄作、つまらない、ということ。お前の肩の上に載ってる丸いのはただの飾りなのか?って思う。(id:p_shirokuma)先生も、エントリの後半で自分の判断で傑作ではない、と判断してるんだから、その話だけでいいんですよ。だって(p_shirokuma)先生の中ではガンダムF91は傑作でしょう?”大型ジェガンタイプが出てきて何もできないまま撃墜されるから傑作”みたいな判断でいいんですよ、そうでないと嘘ですよ。

他の人の書いた“この作品超面白い!”という文章を読みたい

じゃあ、まあ、他人の頭の中で展開された、その物語が面白い面白くないっていうのを聞くのは、無駄なのか、どうでもいいことなのかっていうとそういうことはない。
面白い!(または許せない!)という感想というのは、その人の人生の重要な価値観や、その人の人生や世界の見方に化学反応して生じている。だから、そういう感想というのは、自分とは別の価値観の人の視点、世界観を知ることができるし、自分の知らない知識や世界を知ることができる。だから、そういう、他人の、自分の知らない価値観から生まれた作品の感想っていうものは、とても面白いし、是非読みたいって思う。



ただ、そういう感想文自体も、また、作品と同じように、受け手によって、面白い面白くないというものは出てくるのだけれども。



ところでマンガ書いてます。kindleで発売してます。

誰にとっても面白い、ということはないけれども、誰かにとっては面白いと思うので、もしよければ、読んでみてください。


猫を殺す仕事

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ここは悪いインターネットですね。

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