ドラゴンボール。いろいろと好きなシーンがあるんですけれども、その中でちょっと変わった好きなシーンに、ベジータがパワーボールを使って大猿になるシーンがあるんですよ。
このシーンがドラゴンボールの中で特に深く印象に残ってる人ってあんまりいないと思うんです。けれども、ここがあんまり印象に残っていない、というのが、すごいことなんですよ。
どうすごいのか。それを説明するために、このシーンに至るまでの大猿変化の物語上の流れを追っていきましょう。
ラディッツ地球到着
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悟空がサイヤ人であり、大猿に変化するということを明かされる(戦闘力10倍!)
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ピッコロのと修行中の御飯が大猿に変化する
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ピッコロが月破壊
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ベジータ地球到着
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ベジータ大猿への変身決意(この時点で多少ダメージはあるものの、実質ベジータの方が優勢)
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パワーボールでベジータ大猿化(この時に、サイヤ人がなぜ変身するのかという原理の説明)
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絶望!
大体こうなっています。
ベジータ戦で僕の好きなところは、優勢劣勢が入れ替わることがあまりなく、相手がさらに奥の手を出すときも、その時点で優劣が逆転していない、というです。常にずっと緊張感があって。ハンターハンターのキメラアントの王、メルエムと協会会長の戦いも、好きですね。詰将棋をずっとさし続けるような。
で、ベジータがパワーボールを使うシーンなんですが、パワーボールを使って変身する前に、以下の口上をベジータが述べます。
月の光は太陽光が跳ね返ったもの
月に照り返された時のみ太陽光にはブルーツ波が含まれる。
そのブルーツ波が満月になると1700万ゼノという数値を超えるのだ
1700万ゼノ以上のブルーツ波を、目から吸収すると、尻尾に反応して変身が始まる
限られたサイヤ人にだけ人工的に1700万ゼノを超える小さな満月を造り出す事ができるのだ
貴様の思惑は外れた。例え月を消しても星の酸素と、このパワーボールを混ぜ合わせることでな!!
はじけてまざれ!
新しい概念を説明して、そして、その次の瞬間にその例外を持ってくる。この矢継ぎ早の展開によって、“とってつけた感”が逆になくなってるんです。
難しい言葉を持ってきて、劇中の不自然・超自然な現象を説明することによって説得力を出すというのはジャンプマンガの定石で、男塾の民明書房や聖闘士星矢でもあります。不自然な必殺技や技能を肯定するために。でも、この場合説明されているのは大猿化の原理だけで、パワーボールの説明ではない。なんで、ベジータがパワーボールを作れるのか、どうやって作るのかは説明していない。勢いで押し切っているけれどもたぶんそれに気が付かない。
これが、時間を空けて、“ブルーツ波の説明”→“パワーボールの説明”だと、違和感が出てしまうんです。“取ってつけた感じ”“準備してきた感じ”が出てしまう。しかし、展開上、“パワーボールの説明”をすることなしに、パワーボールを作ることはできない。なぜなら、それは、今までの展開の中では“不自然・超自然な現象”が起こる展開だからです。“難しい言葉の説明”をしないことには、その展開に持っていくことができない。この後、ベジータは反則レベルの大猿変化をしてパワーアップするから、その説明は展開上絶対に必要になります。
さらに、ブルーツ波の説明を、ベジータ戦の前にすると、浮いてしまう。必要性のない情報なので、なんでそれが出てきたのかわからなくなる。伏線だけれども、伏線としてうまく機能しなくなる。
“月がなくなってしまっているのにベジータが大猿に変身する”という状況を作り出すために、どこで、どのような伏線を引いて、どこでどういう“情報”を出すのか、ということを考えた時に、あの直前に説明して、そしてそのままの勢いで変身する。完全にピンチになった状態から変身すると、“都合よく用意された奥の手”のような感じがしてしまうので、“状況的にはまだ優勢”という段階で投入される。
考えれば考えるほど、“ブルーツ波の説明とパワーボールの登場”はあのタイミングしかなくなる。
これがこのタイミングに入っていて、そしてそのことを誰も気に留めないっていうのは、なかなかできるものではないです。
ちなみに、もう一つ。ブルーツ波と、パワーボールの2段階に分けることによってパワーボールというものの存在級位を上げています。これは、マルチビジネス、ネットワークビジネスとかでも使う方法ですけれども、「○○さんっていう素晴らしい人がいて、その人から認められた素晴らしい人なんですよ、この人は」というように、権威を外部化することによって、存在球威は上がるんですね。こういう小技も、地味にすごい。
なんていうか、こういうことを週刊で自然にやってのけていたんだなあというのが、本当に恐ろしいし、すごい。
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あと、ワンピースで僕が一番好きなシーン。それは、神エネルが“ゴムだから電気が効かない”って気づいた時の顔なんですが、これについてはまた今度。