orangestarの雑記

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人間太郎

昔あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。
ふたりは、おばあさんが洗濯している最中に川上から流れてきた大きな桃をたべ、ちょっとハッスルしました。
すると、10か月後、ひとりの男の子が生まれました。


人間から生まれたので、人間太郎と名付けました。


人間太郎は順当に成長し、15年経って15歳の若者になりました。
おじいさんとおばあさんの住んでいる村は、鬼に襲われることはありませんでしたが、領主からのきつい税に苦しめられていました。
「おじいさん、おばあさん、ぼくがわるい領主を退治してきます」
といって、人間太郎は家を後にしました。


途中、犬、猿、雉が人間太郎の前に現れましたが、それらが何を言っているのかわかりません。人間太郎は人間なので動物の言葉がわからない!
おばあさんにもらったきびだんごは、旅の途中で食べました。


そして、人間太郎は領主の家につきます。
これだけ民草から税をとっているのだから、さぞ贅沢な暮らしをしているのだろうと思っていたのですが、実際の領主の屋敷はそれは粗末なものでした。
蔵もほとんどが空っぽでした。


どうしたことかと尋ねると、この領主の領地を流れている川が暴れ川で、数年に一度、どこかしらが氾濫し、家や畑を飲み込み、そのたびに人々の救済やその後の復旧が必要になり、そのための高い税なのだ、といわれました。
川を治水することはできないのかと尋ねると、もう何百年も前から、先祖が何回も治水を試みているが、しかし、何をしても、川は堤を破り続けた。もう私たちは治水をあきらめている、と。
そう語る眼は絶望に倦んでいました。


しかし人間太郎は―それは若さなのかもしれませんが―この川をなんとかしなければならない、と決意しました。そうしなければこの村々の人間は永遠に貧しいままだと。
そして、人間太郎は、ひとり治水作業をはじめました。川底の砂利を運び、砂をすくい上げ、遊水用の池を掘り。
大雨のたびに、それまでの努力をあざ笑うように、川はその作業の後を跡形もなく吹き飛ばしていきました。
しかし、そのすべてが流された後、人間太郎はまたなんでもないように、また一人で治水作業をやり直すのでした。
最初は愚か者をみるような目で見ていた村人たちも、人間太郎の身を粉にした献身的な働きにいつしか心を打たれ、その仕事を手伝うようになりました。


そして50年の歳月が流れました。
ついに、20を超える失敗のすえ、とうとう治水作業が完了しました。
今まで田畑や家を飲み込んでいた暴れ川はもう暴れ川ではなく、人々に恵みを与える川となりました。
人々は手に手をとって喜び合い、そして、人間太郎をほめたたえました。
村人たちは、人間太郎に「あなたのおかげでこの立派な堤ができた。あなたは弥勒菩薩の生まれ変わりに違いない」と言ってかわるがわる手を合わせました。
しかし人間太郎は、


「いいえ、私はただの人間ですよ」