orangestarの雑記

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おうさまははだか

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むかしむかし、あるところに ひとりの 王様が おりました。
その王様はオシャレが好きで、ことあるごとに仕立て屋をよんでは、新しい服を作り、そしてパレードを開いて国民の前に、新しい服をみせてあるいていました。
皆は、無駄遣いだ、もっと他に先にすることがあるだろう、と言っておりましたが、しかし、それはその国の豊かさと、自由の象徴でした。
そうです、実際にその国はとても豊かでした。そして、それゆえ、とても自由な国でした。
だから、周りの国からいつも狙われていました。
ある日、北の国境から隣の国が攻めてきて、あっという間に王様の城まで攻め込まれてしまいました。王様の国は、負けました。
しかし、王様は王様のままでした。隣の国は、王様を王様としたままで、意のままにその国を操ろうとしたのです。いわゆる傀儡国家というやつです。
王様は、王様のままでした。しかし、箸の上げ下げから朝晩の寝る時間まで、全部、隣の国の言いなりでした。
王様の国から徐々に自由が失われていきました。

ある日、王様は、新しい服を作ってパレードをしたい、と隣の国から来た、摂政に言いました。
昔のように、パレードを開けば、暗くなった国民の顔も、きっと明るくなると思ったからです。
王様は、きっと、ほかの願いと同じように拒絶されるだろうと思っていました。しかし、隣の国の折衝は、とても、明るい顔で言いました。
「それはとても良い考えです。ぜひなさってください。我々の国も協力いたします。我が国のもっとも優秀な仕立て屋をよこしましょう」
その予想もしていなかった返答に、王様は大変喜びました。
しかし、それは大きな間違いでした。

隣の国の仕立て屋が用意した服、それがかかっているはずのトルソーには、何もありませんでした。
これは、どういうことか?と王様が尋ねますと、仕立て屋は
「これは、馬鹿には見えない服でございます」とニヤニヤと笑いながら答えました。
摂政も隣で、ニヤニヤと笑っています。

王様は、そうか。いや、本当に美しく、素晴らしい服だ、というと、
恭しく仕立て屋に、何もない服を着させるしぐさをさせ、
裸のまま、パレードに赴きました。

裸のまま、パレードの車に乗って、街中を歩く王様。
王様は、以前、素晴らしい服を着ていた時と同じ、いやそれ以上に立派に胸を張り、街の中を回りました。

子ども達は、「王様は裸だ!王様は裸だぞ!」とはやし立てますが、大人たちは、何も言いませんでした。
ただ、かつてと同じように、王様と、その服を見つめていました。

何故なら、みんな、王様が、馬鹿には見えない服を着ていることを、知っているからです。

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おしまい。