orangestarの雑記

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「隻眼の少女」がムチャクチャ(で)面白い!

たまたま図書館でとった本、「隻眼の少女」が読みだしてみるとムチャクチャ面白くって、一体この作者は誰なんだろう他に何を書いている人なんだろうって思って調べたら、自分の近くの界隈で評判になっている「貴族探偵」の作者で、久しぶりに「ごん…お前だったのか…」みたいな気持ちになった。
ちなみに他のごんおま案件としては大樹蓮司先生の正体が前島賢先生だったこととかです。「探偵と勇者のゲーム」と「ぼくらのオルタナティブ」と「ほうかごのロケッティア」は名作なのでみんな読んでください。




話がそれたんですけれども、本当に「隻眼の少女」面白かったんですよ。面白かった部分がほとんどネタバレになるから、あんまり言えないんですけれども。探偵役のヒロインが水干姿(昔の巫女さんみたいなよく分からない恰好)で母親から名前と探偵技術を受け継いだ片目に翡翠の義眼を入れた17歳の少女、っていう、属性てんこ盛りのヒロイン。さらに格闘技術は超一流で、ツンデレ。完全に過積載。
そんなヒロインと、「自分の父親が保険金のため母親を殺し、それで平然としているような人間だと知り絶望して、さらにそんな父親を殺してしまった自分自身にさらに絶望して、人生と世界と自分自身に嫌気がさして自殺を考えている青年」が主人公っていう。
まあ、流れ的になぜかその二人が偶然訪れた村で凄惨ななぞらえ殺人が起こり、探偵と探偵助手という関係で事件解決に動いていく中で、二人の間に恋心とかなんか甘酸っぱいものが産まれたり産まれなかったりする話なんですけれども、まあ、こう、あらすじだけ書くと、本当に普通のそこら辺によくあるラノベ調の推理小説なんですけれども。



なにかがおかしい。



いや、最後までみると、ああ、これはおかしくなるべくしておかしかったんだな、っていうのが分かるんだけれども。
最初から、何かおかしい。
それは叙述トリックや結論のためにひかれた伏線によって生じるのではなく、それが成り立つような世界観を醸成させるために全体全体に漂わされている雰囲気の話なんだけれども。



なにかがおかしい。



実は大豆で作られた鶏肉の唐揚げを、「これ実は唐揚げなんですよ」って言われて食べているような気分。
自分はあんまりミステリとか読まないので、これが謎解きとしてどれだけ反則なのか合法なのか分からないんですけれども、物語の作り方としては本当に反則ですね。隻眼の探偵少女、御陵みかげのキャラクターと魅力を味わってもらうためだけに、すべてのキャラクターと謎と、舞台設定が用意されている。あと御陵みかげは、最後まで読むと完全に闇落ちヒロインなので、闇落ちヒロイン好きはぜひ読むべきです。あと、ドM属性がある人間もぜひ読むべきですね。そういう(性癖的に完結する)ラストへ向かって、かなり丁寧にすべての状況が作られています。
但しトリックの方は結構ムチャクチャなので(トリックが成立しないという意味ではなく)(なんというかパワー系)推理小説好きはたぶん怒ると思う…。どうなのかな…たぶん怒るんじゃないかな…。ひぐらしのなく頃に、よりは酷くないからそれに耐えきれた人間は大丈夫じゃないかな……。






以下ネタバレを含む感想です

  • 色々と作中でキャラクターの対比が行われていて、それがすごいうまい。主人公二人が肉親に対して不審と憎しみと絶望を感じているのに対して、身内に身内を殺した殺人犯がいるかもしれない琴折家の人たちは、仲が悪い部分もあるけれども、結局家族に対して、すごい大事に思っているという対比がすごい良い。
  • あと、家を継ぐとかそういうタイプの何か。
  • 前編と後編で18年の年月が経っていて、それで琴折家がどのように変わったのか、っていうのが分かるのもいい。人の、家族の歴史が描かれるのは個人的にすごい好きです。赤朽葉家の伝説とかベルカ吠えないのかとか好き。
  • ヒロインが、実の父親に2歳の時に左目をくりぬかれるというさらに属性モリモリなところがいいです。結局父親は超ベタぼれだった母親のスペアくらいにしか娘を観てなくて、だから、おなじにするために目をえぐったっていう。
  • 母みかげと娘みかげを、よく似ているけれども全然違う萌えキャラとして描いていて、一粒で二度おいしい感じ。
  • 実際、どこら辺からアレかっていうと、武術の達人である山科恭一を後頭部からの一撃で屠ることができる、っていう点で、犯人はもうほとんど一人に絞られてしまうんだよなあ…。
    • 但し、その殺害の武器とかが最後で明かされるんだけれども、その装備の隠し場所が開かされるので、それで、ウヒャーってなる。そうだよね、袴だもんね。
    • 袴の中にナタ収納。いつも使ってる扇は鉄扇。(それを普通の扇子のように使う指と手首の筋力)
    • 筋力はゴリラ!頭脳は大人!燃える瞳は翡翠の義眼!1メートル50センチの全身に不整合のエネルギーが満ちていた!名探偵、御陵みかげ!
  • 不整合のエネルギーに満ちているので行く先々で人が死にます。
  • 雑に処理される琴折家の兇業
  • さらに雑に処理される琴折家の伝承を調べている学生の岩倉辰彦。
  • 本当に、ヒロインが邪悪なのが素晴らしい。本当に素晴らしい。なかなかこういう邪悪なヒロインは見ないし、主人公はある意味愛されている感じがある。一応フォローはある。
  • ウヒヒヒってなる。
  • とりあえず数合わせみたいな感じで雑に殺される三つ子かわいそう。

もっともっとネタバレ感想、本当にネタバレなので未読の人は見ない

本当にヒロインがドSで素晴らしい。暴力を振るうことに躊躇がなくて、それを完全に隠ぺいする能力を持っていて、そして本人の欲望が、“世間から一目置かれる立派な探偵になりたい”っていう目的だった時にどんな惨劇が産まれるかというお話。けれどもそういう本人のトリック自体が話のテーマではない。
そういうヒロインに“使い勝手のいい道具”にされた人間がどんな末路を送るのか、というのが、このお話で、それはもう悲惨なことになるよ。1部と2部構成になっていて、両方とも、スガル村っていうところで起こったその村の生き神様を代々つかさどる“琴折家”で起こった凄惨な事件の話なんだけれども、とりあえず三つ子が首を斬られて死ぬ。そりゃあもう、コロンコロンと首を斬られて死ぬ。犯人は偽の手がかりを残していくのでそれに翻弄される隻眼少女探偵、っていう体になっているのだけれども、2部の最期に「実際は全部そのヒロインが父親を殺すために仕組んだ自作自演」ということが明らかになる。1部で、初めての自分自身の事件に緊張しながら、目の前で人が死んだり自分の推理ミスのせいで、さらに殺人が増えたり、自分の父親が殺されたりして、震えたり傷ついたりしていた少女、が実は主人公を発情させるために本人が仕組んだことだってことが明かされて、なんというかすごい。その主人公を選んだ理由も、“こいつもうすぐ自殺するし、あとくされの無い自分の娘の種としてちょうどいいわ”っていうだけの理由。コロンコロンと人を殺すし、自分の身体(性的な意味で)にも頓着しないし、サイコパスというか、一つ下のレベルで人間が完成されている。目の前で人が死んでいても、バイトのことを考えるみたいな後期金田一の美雪みたいな感じの壊れ方を登場当初からしていて、それを自分でコントロールしているという動く闇みたいなヒロイン。たまらないですね。

隻眼の少女

隻眼の少女