orangestarの雑記

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ある優しき殺人者の記録、みた(ネタばれあり)

amazonプライムビデオで、5月1日までみれるので、見た。面白かったけれども、完全に白石監督の映画だった。コワすぎ!番外編だった。おこることとか登場人物のキャラクター設定も含めて。





白石監督が撮った韓国映画。登場人物として白石監督自身も、田代役で出ています。



白石作品に出てくる、暴力と霊能力は、本当に嫌な感じがあり、その嫌な感じが本当に素晴らしい。白石映画の大きな魅力だと思う。暴力をふるうことに対して躊躇しない人間は怪物だし、別の価値観を持ち既存の社会とコミットできない人間も怪物である。それと、完全に異界からやってきた、クトゥルーみたいな怪物と。


怪物の在り方、というものに対して、いろいろなバリエーションがあっていい。結局、白石監督サーガの中に陥っていくのだけれども。


この、「ある優しき殺人者の記録」は、江野くんが出てくる「オカルト」と対になっていて、話の構成、コンセプトがとてもよく似ている。一方がヤクザの武力としての暴力なら、社会というなの人を押しつぶす暴力、それが、神様かなにかわからないものの命令を聞いて、殺人など、この世界で普通に生きていてはやってはいけない犯罪を犯す。その結果、別の世界へ連れていかれる、という話なのだけれども…。


それぞれの結末が、ハッピーエンドとバットエンドで、全く違う……、ように見えるけれども、実際は、結末も、ある意味同じ。神様からの契約、~~してやる、というのはちゃんと守られている。あの異世界も人にとっては地獄だけれども、それ以上の生き物には、もっと良いところに見えるのだろう。なんというかクトゥルー的というか、“人間には及びもつかない神”という概念でとても良い、好み。


あと、一瞬、ハッピーエンドに見えるけれども、この主人公のサンジュンは、サンジュン自身の時系列のなかのユンジンは生き返っていないし、ソヨンも殺したまんまだし、ほかの27人も死にっぱなし、という、本人自身は全く救われていないエンド。なんとなく、藤子不二雄の「ノスタル爺」味がある。最後、現代にテープだけ戻る、というのは、“誰にも届かない手紙”の趣がある。誰かに受け取ってほしい海に流したボトルが、一番届いてほしい人に届きそうになったけれども、結局届かない、というのがいい。好き。


ドキュメンタリーでビデオをとるという設定の、ながまわしで連続する映像は、小劇場の舞台感がある。狭い限定的な空間で、BGMや、画面の演出の効果を使用せずに、役者の演技だけで間をつなぐ、物語を見せる、というのが。ほか、長まわしの映画には、「デイアフタートゥモロー」とか、「明日、君がいない」とかがあるけれども、そういう映像の緊張感の効果と、モキュメンタリーの臨場感と、両方の効果が出ている。


映像に全然きれいさがなくて、たぶん、これがフランス映画とか、香港映画とかだったら、“ものすごくきれいな映画”として作りこまれるのだろうけれども、人間の汚いところが、汚いまんま、特に昇華さえることなく描かれている。こういう、全く優しくないところが、白石映画の魅力だよなあ、って思う。