orangestarの雑記

小島アジコの漫画や日記や仕事情報など

魔法のハサミはどこにもないという話。

そしてみんなそれを欲しがるという話。

ブクマが1000単位、イイねが1万単位ついてる記事の少なくない話が(もしかしたらほとんどの話が)人とうまくやる万能の方法論でこんなにうまくいったという話や、とても有能な上司とその上司が採用している方法論の話、優秀な保母さんの奇跡のような育児術、電車の中で出会った親切なおばあさんの話、顔はブサイクだけれどもNo1になったホステスの話、偏差値30からの大学受験、秒速で1億稼ぐ話、虐めも解決する鏡の法則、とても優秀なコンビニバイトの女の子は一体何を見ているのか、仕事は人並みだけれどもとても人に教えるのがうまい派遣社員の話、何も仕事をしてないのにそこにいるだけで現場がうまくまわるパートのおばちゃんの話。


そして、どれも、ほんの小さな“気づき”で、それを手に入れられるようなことがかいてある。素敵だ。ここに書いてあるようなことをやってみれば、自分も明日からかわれるかもしれない。そんな気持ちになる。でも、そんなわけはない。


結局、そういう技術は、ほとんどが属人的だったり、または誰でも出来るけれどもよほどの修練が必要だったり、実際、技術系の技能よりもメンタル系の技能の方が習得するのは難しいのを、さも【簡単なように書いてある。フィジカルの技能は、人間の身体が大体同じような形をしているから、超スゴイレベルの技能でなければ、大体習得が可能だ。僕ぐらいの絵だと、普通の人でも1年目的を持って絵を描いていれば余裕で追い抜けるレベルだろう。でもメンタルのほうはそうはいかない。人間の精神のかたちは、それぞれ違っていて、人によって気付けることと気付けない、それ以前に、見えていない、ということが多い。人の表情の喜怒哀楽緊張弛緩を正確に測れない人間だってたくさんいる。僕だってそうだ。でも、たぶん、大なり小なり、そういう差異はある。それは肉体的な振れ幅よりも大きくて、目に見えなくて、目に見えないから、直すのも難しい。


誰だって、どうにもならないものをどうにかしたいし、どうにかなるものならなんだってすがりたい。
上の記事群はそういう気持ちにうまくひっついて、みんなからの共感を得てる。


でも、その記事は、なんの役にも立たないよ。どうにかなるんだったら、もうどうにかなってるし、今まで色々な手段を使ってどうにもならないから、こんなんなっちゃてるわけで。正直、奇跡のような実話とハウトゥの話は、オカルトだと思う。魔法の鋏。なんでもうまく切り分けることの出来る魔法の鋏。


でも、魔法の鋏なんてどこにもなくって、だから、切り取りたいものを切り取るためには、それに合った鋏をその都度探してこないといけない。似たような鋏をたくさん探してきて、試して、駄目だったら別の鋏を探して。あるときには、鋏から自分で作らないとならないといけない事もあるだろう。


魔法の鋏は、本当は、なんでも切れる鋏じゃなくて、切れたように見せる鋏だ。


もし、その方法でうまくいっても、その、うまくいっている状況を作り出している他の要素は一つも変わっていないから、結局すぐに戻ってしまうだろう。


自分で、鋏を探して、ときには自分で作って、そうして、色んなものを切り分けて、切り出していくしかないんじゃないかなあって思いながら、今日はもう寝ます。







どうでもいい話。